ねずみ講とわたし

noteに書いたものをこちらに転載します。

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もともと伝統的なことや格式ばったことが苦手(というか嫌い)なため、
年賀状も出さず、届いた返信したいひとにだけ返しているうちに
親しい友人はメールやメッセージで十分ってひとたちなので
今年はとうとう

・以前の職場の元上司60歳代、
・父方の伯母80歳代、
・その娘50歳代

からの3葉からのみになりました。
賀状を書くのが、楽ちん。

返信として、
2年ほど前に食事した元上司には「また食事しましょう!」←実現させるつもり
もう、20年ちかく会わずに毎年年賀状で「会いたいですね」
と言い合っている伯母には今年も「会いたいですね」、
2年前に会い、「今年は会いたいです!」と書いてきた従姉には
あちらの家族の消息に対応したこちらの消息だけを伝えて、「会いたい」とは書けませんでした。

どうやら、性格的にわたしには父方の親戚のほうが合う気がします。
とくに父の姉である伯母は小さいころから慕って文通したり、
京都に来てからはちょこちょこ、大阪の田舎のほうに住む伯母宅に泊りがけで遊びにいったりしていました。

わたしが上の子を妊娠したときに両親から絶縁され
その後、国交回復したあと、母方の親戚、従兄妹と会うことはありませんでしたが、父方の親戚は、本家が両親が住むところからさして遠くないところにあり、実家に帰った際にお邪魔したりしてその後も交流がありました。
実家から勘当されてからは連絡はばかられましたが、国交回復とともに伯母と従姉との交流も再開し、祖父が健在なときに伯母宅に滞在した折、新しい夫と家族で訪問したりもしました。

従姉もいいひとと巡り合えて結婚し、2人の子どもに恵まれてからは
お互い、年賀状を交換するだけになり、15年ほどがたちました。

それが3年ほど前の年賀状で、にぎやかな文面のなかに
「新しいことはじめました」
という一文があり、興味をひかれました。

そして2年前の年賀状に、
「ぜひ会いたいです。いろいろ話したいです」
というようなことが書いてあったので、返信にわたしの携帯連絡先を記しました。
それからすぐ連絡があり、従姉がわざわざ大阪でも交通の不便なところから出て来てくれるとのこと。
積もる話があるというので、気を使わなくて好きなだけいられる我が家がいいかな、ということで我が家での昼食会を設定し、その日は貧しいながら、ありったけの手作りのご馳走を用意して、京都駅に到着するバスに乗ってくるという従姉を迎えにいきました。

「お互い、かわらないね~!」
と喜びあい、わたしの家への市バスの中で互いの近況を語り合います。
内向的で口数すくないわたしと違い、従姉はほがらかでよくしゃべります。
「マリちゃん、肌きれいだねー!」
「いやいやありがとう。ところで、新しいことってなに、話したいことってなに」
と訊くと、
「それは、あとで、ゆっくり」
そこでふいっと違和感が芽生えました。

家に着いて、たくさんの料理を並べた昼食をとり、
そこでのよもやま話のときも再度、
「新しいことってなに、話したいことってなに」
と訊くと、また
「それは、あとで、ゆっくり」
違和感が増します。

そうして昼食が終わり、用意したスイーツを出してお茶の時間になったとき
従姉が(実は再会したときから気になっていた)ファイルをおもむろに出してきて
「ああ、やっぱり…」
嫌な予感は、的中してしまいました。

なんとかいう免疫力を高めるこの物質がスゴい。
いやいや、わたしも最初は疑っていたよ。
何度も誘ってくるひとがいて、「マルチに引っかかるもんか」とね。
でも、あれこれこういうことがあって、だまされたと思っていってみたら…、
これがよくってね。
そしてこれ、本当に効くんよ。
うちの父も、それまで体の状態がひどく悪かったのが、これでよくなった。
マリちゃんのご両親にも会いにいったよ(飛行機の距離)。
元気そうだった。関東の田舎の、交通の便の悪い屋敷に住んでる従妹のAちゃんにも会いにいった。
いや、勧誘しているわけではないのよ。
免疫のこと理解してもらって、そのときがきたら思い出してもらえたら、と…

とぺらぺらと、読む人が読むと、全然心に響いてこない文章が羅列の怪しげなパンフレットを出して説明する。

「悪いけど、わたし最先端の自然科学系の研究機関で働いていて
免疫についての知識は学生にも及ばないとはいえ、あなたよりかは理解していると思う。科学の情報も、それにまつわる嘘情報も」
ニコニコきいているふりをしつつ、そう思っていた。

ひどく悲しくなった。

20年もあっていないわたしに(わたしだけでなく、おそらく似たようなほかの親戚も)会おうとわざわざ出てきてくれたのは、こういうわけだったのか。
よかったー、肌がきれいだったり、バスのなかで家族に問題ないことや、うちにお金がないことを他意なく伝えていて。
生保に就職したり、マルチがらみになったひとの周りから友達がいなくなるとは、こういうことか。
2度ほど会ったことのある、穏やかで知識豊富そうな旦那さんや
わたしの娘たちとそう違わない子どもさんたちは、どう思ってるんだろうか。
そして、伯父伯母は…。

従妹は、試供品の一回パックの粘液の封をあけ、
「どう?食べてみない?」
という。
わたしと娘が顔を合わせ、拒否の空気を醸し出すと自分がちゅる~っと吸い込んでいたが、その姿が滑稽で哀れだった。

かろうじてニコニコ送り出して、バスで去ってゆく従姉の姿がみえなくなった瞬間、
「びっくりしたなあ!」
と一緒に見送りにきていた娘に言うと
「よかった~!ママ、ニコニコ、すごいねー、って感心してきいてたから、
参加するって言いだすのかと思ってヒヤヒヤしてた」
「んなわけないだろ!」(いやわたしの演技力もまんざらではないのか)
それにしても、旦那さん、お子さんたちはどういう思いで、どういう態度で見守ってるんだろうか?どうにもならんし放ってるんか、積極的に応援してるのか。と娘と話し合った。
「わたしは、ママがあんなになったら嫌だ…」
と娘。

それから一年ほどたって、ふと携帯の「迷惑メール」フォルダに従姉からのメッセージが分類されているのを発見した。
「ぜひ、参加してみて欲しいセミナーがあって」
日程がすこし先だったので「見つけるの遅かった!」という言い訳はできないけれど、スルーするか正直に
「もうこの類の連絡はやめてもらえませんか」
と連絡するか迷った挙句、迷惑メールに分類されたことに気づかなかったことにしました。

そして、今年の年賀状…。
彼女はいまだ、あのグループで着実に「子」を増やしているのだろうか…。

いやあれはまだねずみ講ではなく、マルチ商法か。
つい、今年の干支にちなんでタイトルがつけたくなりました。