織姫彦星もわるくない

じぶんではそんなつもりないし、わたしをよく知ってるひともそうだと思うんですが、
「おとなしい」と思われることがあります。

それは、人見知りだからというのと、
自分が非常に狭い人間だから、本音をぺらぺらしゃべると引かれる、
受け入れられるひとはあまりいないだろうと用心しているのと
もとがおしゃべりではなく、どうも脳の回路が口達者でなく
書くほうが得意なようにできているのですね。

んだから、いつものように聞き役になってにこにこカウンターに並んでたら
大将から「しゃべらへんな」って言われたんですね。

その会では、年に一回、地方の伝統芸能の興行を鑑賞する一泊旅行を実施しています。
その際に宴会をするお店も決まっています。
肉も魚もどれもすばらしく、食べるのが大好きな人々が集う人気店、演劇関係のひとやらどこそこの有名人も来るらしいそのお店の大将は色気のある60歳すぎの元気なだけではない、酸いも甘いもかみ分けて料理だけではない、いろんな遊びも経験してきたひとです。

10人程度のわたしらの会はまず個室でさんざん飲み食べしてから、
閉店ちかくになり、お客さんがひいてきたカウンターの前にずらり並んで
大将に相手をしてもらいながら、お酒を飲んで食べ物をつまみます。

わたしがその鑑賞会に参加することになり、はじめてお店にいったとき、
その会の新参者でもあるし、ところによっては用のないおばはんなのに
その会では最年少の部類にはいるのでおとなしくしていたこともあり、いつものようにひとの話、大将の話をきいてにこにこしておりましたら、大将がふいとわたしに
「しゃべらへんな」
と言ってきたのです。

それから、ほかのひとと話をしたり、じぶんの話をしたりしても最後には視線がわたしのところにもどってきて
「おまえは、あやしい」
と言う。

しゃべらないけど訳ありの女、と見抜かれたようです。
わたしも、大将の不思議な色気、遊びをくぐり抜けていろんなことを経験してきたからこその洒脱な感じ、仕事への厳しさなどがよいなと感じていてすっかり大将がお気に入り。

それから閉店になったので、ほかのメンバー3人とともに、大将に連れられてちかくのお店に飲みにいってたのしかった。
大将がひとと会って飲みにいかなければならないので解散したけれど、そうでなければついていくところだった。

まあ大将も酔っぱらっていたし、一年もたってるので忘れているでしょうと思ってそれでもひそかに楽しみにしつつ2年目行きましたら、
「おまえは、相変わらずあやしい」
と言われました。

そのときは、下の席がいっぱいだったので我々のいた2階の個室に大将が来てくれて。
記念写真をとるときに、お互いちゃっかり隣同士で仲良く写真におさまりました。

そして今年は、伝統芸能の興行はコロナのため中止となったのですが
「せめてあのお店で宴会したいよね」
と有志でまた一泊旅行に行ったのです。

今回は人数が少なかったものだから、カウンターの真ん中の席。
わたしは大将の真ん前。
入ってすぐは、大将もすました顔で仕事してたのですが、なんとなく、ちょっと照れてる?という期待。
そのうち、顔をあげてにやりとして
「ひさしぶりやな」
うれしくなりました。

お客さんから注がれるし、大将仕事しながらだんだんお酒もはいってきてちょっかいかけだしてこちらもたのしく、
「このひとは、エキゾティックなひとやなあ」
あれ、いつもは「あやしい」という表現だったがそういうつもりの言葉だったんか、
多くは語らないが、なんか雰囲気のあるひとだと、そう認識してくれてるのだなとうれしくなりました。

そのうち、ひょいとわたしの顔をのぞいて
「酒すすんで、ええ色になってきたな。
このひとは、酒がはいるとエロっぽい目つきになる。
色っぽいやのうて、エロっぽいんや」
などと言い出す。

そいから、大将が冗談で
「このひとは、俺の彼女やしな!」
と言って本気にした3人むこうのお客さんがわたしを見ようとしたり
誰かが冗談でたしなめたら
「ええやないか!俺ら、一年に一回しか会えへんのやから!」
と言ったり、どさくさにまぎれて冗談ぽく、大将と電話番号の交換もしました。

もちろん、大将からはかかってこないし、わたしからもかけないけれど
電話番号だけでもお互い知ってる…ということで、胸の内が温かく
わくわくするという、純情なたのしみを味わっています。

いいじゃない、一年に一回、こんなやりとりをしてこころを潤すっていうのもねえ?
なるほど、誰かが言ったように
「恋はおとなのしごと」
だね。